REPORTレポート

Vol.22 期待される官民連携の姿

2024.05.16

 水戸のまちなか大通り等魅力向上検討協議会では、まちなかのビジョン策定やそれを踏まえた社会実験を実施していますが、この取り組みは「官民連携」で進めています。ここで改めて官民連携について考えてみます。

官民連携の難しさ
 ビジョンの策定は、民主導で進め、行政サイドにはそれぞれのお立場から内容確認をお願いしました。社会実験では、実験内容が主に公共空間の利活用ですから、「場の使用許可」を行政に求めました。市道である裏通りのストリートサイン設置については、水戸市の都市計画部に道路管理者や警察との協議・手続きなどをお願いしました。南町自由広場の使用については、市の商工課と協議しましたが、許可が難しい部分もありました。また民間の場の使用にあたっても、消防設備に関して消防局から問題点を指摘されるなど、許認可の壁に直面しました。  最終的には「実験的に」ということで了解を得た部分もありましたが、場の「使用許可」、「活用」の際の各種法規制や制度、許認可、手続き等に関して、行政との連携の大切さ、またその難しさを痛感しました。  何が難しいかと言うと、行政の方は「立場」で行動されることが多いからです。官民が連携して一緒に取り組もう、と言うのが官民連携の趣旨ですが、どうしても管理者として間違ったことは言えない、正式にオーソライズされたこと以外は公言してはいけない、個人的な意見は言ってはいけない。そんな暗黙のルールがあるようです。ビジョンについては、共感は頂けても、それを行政計画に位置付けることは出来ません。社会実験の許認可に関しても、心情的にはご理解頂けても、明文化された「規則」が優先し、例外は認められません。私たちの取り組みは公共性の高いもので、個人の利益を目的としたものではありませんが、それでも難しいのです。

官民連携の本質とは
 それでは官民連携とは何なのでしょう。この場合の官、つまり行政の方々は、共に事業に取り組む仲間なのでしょうか。それとも、施設等の許認可権限を持った管理者なのでしょうか。  かつてまちづくりの現場では、「住民参加のまちづくり」が持て囃されました。官主導でお膳立てされたところに住民も参加し、形としては官民連携で進みます。でも用意された枠組からはみ出ることは出来ません。官の用意したプラン、シナリオに対し、民は意見を出す程度です。主体はあくまでも官で、民に当事者意識はありません。このようなまちづくりの結果として、どれだけ多くの※消滅可能性都市が生まれたことか。  そもそも官民連携とは、古くて新しい概念です。「新しい公共」とか「共助社会」といった言葉もありますが、官民連携の中の「官」は「公」のことではありません。「公」とは「みんなのこと」で、2つの意味合いがあると思います。一つは、「皆のためになる活動は官民一緒に」と言う意味です。皆のためになることは官民こぞって汗を流すのが、昔から当たり前のことでした。道普請が良い例です。公共事業ですが、お代官様の旗振りのもと、村人こぞって参加します。もう一つは、「皆の活動が円滑に進むための約束事、制限」の意味です。車は左側走行ですが、この約束事がないと安心して前には進めません。2つとも、皆が少しずつ頑張ったり我慢することで皆が得をします。そんな仕組みこそが「公」「公共」です。

民主導の官民連携
 そして、官民連携の基本は民主導です。民がそれぞれの立場で主体性をもって始めるべきことです。まずは民が動き、後から官がそれを支援する。民は公的な心を持ちながら、経営的視点や専門性などを発揮して事業に取り組みます。官はその民の事業や活動の成功のために、資金や制度、許認可などの面で協力を惜しまない。かつて墨田区役所の戸梶大さんは「行政はコンシェルジュである」と語っていました。自身が当事者意識を持ち、公共空間を使いたい市民の要望を何が何でも実現させてあげよう。そんな意気込みを感じました。  官民双方で共有する「公」の意識が失われてしまったのは、戦後のことでしょうか。それが80年近く続き、民による身勝手な事業と、それを管理する官、といった構図が出来上がってしまい、官民の連携を難しくしています。官民連携の最終目標は、互いの信頼関係を再構築し、明確なルールがなくても、自ずと公的な観点に立った行動と結果を生み出せるようになることです。 ※消滅可能性都市とは、2010年から2040年にかけて、20~39歳の若年女性人口が5割以下に減少することが見込まれる都市で、2014年には全国896市町村が日本創生会議によって指定される。

この記事を書いた人

三上晴彦

1959年水戸市生まれ。水戸第一高等学校、筑波大学第一学群自然学類、筑波大学大学院修士課程環境科学研究科を経て、さまざまな街づくりに携わる。現在では株式会社まちみとラボ代表を務め、水戸の歴史と文化、芸術を活用して、水戸のまちに新たな価値を創造し続けている。

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