REPORTレポート

地元蔵人がすすめる銘酒【株式会社月の井酒造店】|ぷらっと・ぷらざ特集記事

2024.01.17

酒質設計をしないお酒造り

 20年前に父が他界したこと(私が16歳の時)や、3人兄弟の長男であるいうこともあって、家業を継ぐという意識は常にありました。私で8代目になります。実は、ここ3・4年で酒質を変えたんです。変わってしまったのではなく、変えようとして変えました。かなり大きな変革です。酒造りの道具、原料も一緒なのですが仕方を変えました。今までは「こういう味を作りたい」と着地点を決めての酒造りでした(酒質設計に基づいた酒造り)。今チャレンジしている酒づくりは、自分たちに与えられた環境や素材などの財産を積み上げることによって生まれる新たな価値づくりという感じです。具体的に言いますと、敢えて成り行きでつくるんです。例えばですが、昨年は暑かったですよね。これを悪いこととは捉えずに、環境の個性として捉えるわけです。なので暑かった年の酒造りはこうなりました。「結果的にこのようなお酒ができました」。そこに重きを置いているんです。自然ににじみ出てくるものが月の井の個性なのかなと考えています。それが唯一無二のものであって欲しいですね。そしてお客様に認めていただくことで、この先の喜びも大きくなるのかなと夢を膨らませています。

生酛(きもと)づくりを採用した「和(な)の月」

 変えないものもあります。祖父の代からこだわってきたもの、それは原料米の選定です。茨城産の有機栽培の酒米も使い、生酛(きもと)づくり(一般的な日本酒づくりで使用する醸造用乳酸や酵母を一切添加しない。乳酸発酵や酵母による発酵を自然に蔵に住み着いているものに任せる仕込み方。蔵の中にはこのような天然資源が長い年月を経て宿ってるいる)により醸すお酒が「和(な)の月」です。通常の造り方の倍以上時間と労力がかかります。無添加なのでどんな乳酸菌や酵母菌が湧いてくるのか毎回異なり、再現性は低いです。しかし、そこが面白みであり、価値があると思っています。月の井でしか生まれえない毎年の味を楽しみにしています。

おすすめのお酒【純米大吟醸 彦市】

 月の井酒造店の創業者である坂本彦市の名前をいただいた日本酒です。歌舞伎の世界のように私たちも名前を襲名するのですが、(兄弟やおじさんなど近い存在のものは、彦を受け継いでいます。私の名前も直彦)ただ、私、父、そして祖父は、彦市を襲名せずに今にいたっています。なので自分が初めて作る新しいブランドには、この彦市という名前を使いたいと思っていました。テーマは「地元一貫づくり」。大洗の農家さんと一緒に米作りをして、米・水・風土のすべてを大洗に授かるお酒です。辛口でありながら、おだやかで優しい味のお酒です。現代の酒造りでは、もろみが発酵する際の温度をコントロールするのですが、あえてコントロールをしません。発酵には大洗の気候風土を最大限に活かしたいので・・・。暑いなら暑いなり、寒いなら寒いなりの温度経過をとることが大洗でしか起こりえない発酵だと考えています。教科書通りではない自然任せの月の井オリジナルという感じです。

おすすめのおつまみ【焼いたラム肉(ジンギスカン)】

 うちのお酒はアミノ酸が多く含まれているので、旨みがあります。なので赤身のお肉との相性が良いのかと個人的に思っています。お燗したお酒と一緒に楽しんでいただきたいですね。燗酒と一緒にいただくことで、融点の高い羊の脂が口の中で融けだしてさらに美味しくなりますよ。

2024年の取り組み

 「大洗に授かる酒」をテーマに、酒質設計をしない、大洗の自然をいかした、オリジナルティの高い酒造りに挑戦していきたいと思います。ご期待ください。


株式会社 月の井酒造店
住/茨城県東茨城郡大洗町磯浜638

神磯の鳥居からほど近い地で1865年(慶応元年)に創業。当初は松前屋の称号で酒造りを始める。途中、大洗の中秋の名月の美しさにあやかって「月の井」と社名変更して150年。大洗港で祝いの酒、疲れを癒す酒として飲み継がれている。


この記事を書いた人

ぷらっと・ぷらざ編集部

地域情報誌「ぷらっと・ぷらざ」編集部です。

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