REPORTレポート

Vol.27 水戸の新しい市民会館とまちなか

2024.09.27

 昨年7月にオープンした水戸の新しい市民会館。一年以上が経過し、今年の8月末現在での来場者数は135万人以上、一日の平均は約3000人です。大きなイベントのない日でも1500人程度の来場者があるそうです。ところで、そもそも何をもって市民会館の成功とするのか。市民会館が活発に利用され、営業的に成功することはもちろん大切です。しかし、その上でもっと大切なことは、市民会館のお陰で、立地する水戸のまちなかが賑わい、再生し、エリアとしての価値が高まること。その結果として、水戸の街全体の魅力が高まることです。
 それでは、市民会館へのたくさんの来場者は、まちなかの再生にどれだけ寄与しているのでしょうか。

圧倒的に魅力的な市民会館

 市民会館については、オープンする前、建物が概ね完成した令和4年の6月と、内覧会のあった令和5年の5月1日、そしてプレオープンデイの5月27日、都合3回の見学を行いました。建物が完成に近づくにつれ、強く感じてきたことは、「圧倒的だ」という気持ちです。市民会館があれば、他はいらないんじゃない?と言った感じさえしました。
 市民会館が独り勝ちしたのでは意味がありません。市民会館が、魅力的な「場」を独り占めして、かえってまちなか全体の活力を奪うようなことがあっては、大きなマイナスです。

 

独り勝ちの問題点

 以前、JR東日本の駅ビル担当者と話す機会がありました。私から「駅ビルが賑わうとまちなかが衰退して困る」とお話ししますと、その担当者は「実は社内でも問題になっているんです。駅ビルが繁盛して街が衰退すると、肝心要の鉄道乗降客が減ってしまいます。街と駅の両方が大切であることが分かりました」と。
 また道の駅は「道にも駅があっていいんじゃないか」との発想で、平成の初期から整備が始まりました。地域の活性化に繋げたい、との思いがありましたが、道の駅は見事にドライブイン化し、その一ヶ所ですべての用事が済んでしまう拠点となってしまいました。郊外の道の駅が成功すればするほど、それまでの中心地は衰退します。
 鉄道駅にしても道の駅にしても、それは「駅」であって目的地ではありません。そこでバスや自転車、徒歩などに交通手段を変え、名所旧跡や風光明媚な観光地、あるいはまちなかなどに足を運ぶためのターミナルなのです。
 ですから、駅ビルや道の駅の独り勝ちは、本末転倒なのです。

エリアとしての価値向上を
 「敷地に価値なし。エリアに価値あり。」と言う言葉があります。例えば同じ規模の商業施設を同じお金を掛けて整備したとして、それが水戸にある場合と銀座にある場合とでは、どちらが成功するでしょうか。答えはもちろん、銀座です。その理由は、当然のことながら、水戸よりも銀座の方がエリアとしての価値が高いからです。
 一つひとつの建物や敷地の価値ではなく、エリア全体としての価値こそが大切です。独り勝ちは自滅への道です。エリアとの共生、エリアとしての価値向上こそが、独り勝ちではない、皆で得をする地域再生の秘訣です。
 過去に、水戸の街でも「独り勝ち」と思われる現象が生じています。エクセル南がオープンした平成23年、水戸駅前地区の空き店舗率が急増しています。大工町1丁目再開発が竣工した平成25年、大工町地区の空き店舗率が急増しています。
市民会館来場者の回遊性は?
 さて、新しい市民会館ではどうでしょうか。
 水戸のまちなかでは、従来から水戸駅ビル(エクセル)への人の集中が顕著です。それに加え、市民会館のオープンでMitoriO地区への人の集中が加速しています。その結果、水戸駅から銀杏坂までと、MitoriO地区のある泉町周辺での人通りは増えましたが、その2つの地区に挟まれた南町地区での人通りは相変わらず少なく、微増程度にとどまっているのが実情です。市民会館のマグネットが強過ぎて、そこへの来場者が市民会館だけで満足してしまい、周辺には回遊して来ないのです。

来場者に合わせた対応を
 この一年、市民会館のオープンで確かに水戸のまちなかのイメージは向上しました。コロナ騒ぎの終了も相まって、若手を中心にまちなかへの出店意欲も旺盛です。問題は、その新しいお店が長続きするかどうか。
 市民会館への来場者が自分のお店に回遊して来るのを待つのではなく、様々なイベント情報を先取りし、そのイベント来場者の特性を事前に分析し、それに合わせた営業展開が必要になるでしょう。特に市外からの来訪者の多くは、市民会館で開催されるコンサートなどの後に、ちょっと寄りたいお店を探しています。
 かつて、水戸のまちなかにはたくさんの大型店が立地していました。それでも地元の個々のお店は、それぞれの特徴ある商品やサービスを提供することで、大型店と共存共栄することが出来ました。市民会館のプラスの効果をまちなか全体に波及させたい。水戸のまちなか大通り等魅力向上検討協議会では、商店街の方々と一緒に考え、この命題に取り組んでいきたいと考えています。

この記事を書いた人

三上靖彦

1959年水戸市生まれ。水戸第一高等学校、筑波大学第一学群自然学類、筑波大学大学院修士課程環境科学研究科を経て、さまざまな街づくりに携わる。現在では株式会社まちみとラボ代表を務め、水戸の歴史と文化、芸術を活用して、水戸のまちに新たな価値を創造し続けている。

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